Endo at The Rotunda ロンドン | 2022年2月
鮨職人 遠藤和年
鮪漁師 田中一
ロンドンきっての鮨レストラン Endoの鮨職人、遠藤和年さんには、いつも驚かされる。
少しの間を置いて、お店を訪ねると、いつも、新たな驚きがあるからだ。
常に進化を続けること、それが、食べ手に伝わるレベルでの進化を遂げることは、本当に難しいし、孤独な戦いだと思う。
先日の食事で私が最も感激したのは、彼が握ってくれた、背トロだった。
背トロは、通常のトロが取れる腹の部分ではなく、背ビレの下にあたる部分の身で、程よい脂、赤身の部位でもある。
初め、何も告げずに、差し出された中トロ。
口に含むと、最初は、冬の濃厚な脂が口内を独占した後、「これは何!?」という風味がじんわり立ち昇ってきた。
最初、この味わいをしばらく言葉にできなかった。
複雑で、いくつもの層と深みがあり、強さもあり、その上で、ただ単にきれいなだけじゃない、”何か” があった。
美味しい、旨味たっぷり、そういう ”美味” では、ないのだ。
なにかもっと、実体のある現実、の味がした。
「これ、背トロといって、背の部分なんですよ。今日、是非食べていただきたくて、取っておきました」
遠藤さんが言う。
次の握りやお料理へと食事は進んで行くが、それでも、まだ、私の中で、この何か、の味が、何であるか、どうしても言葉にしたくて、考え込んでいた。
そして、ようやくして、これだ、という言葉に辿り着いた。
「生命 – いのち、の味」
そう、大自然を生きたもの、野生のものだけが持ちえる味。
そう気づいた瞬間、突如として、目の前に、大海を豪快に泳ぐ、この雄大な生命の姿が脳裏に浮かんだ気がした。
まるで、この巨大な生命が泳ぐ、海洋の深く、冷たい水の温度が感じられるかのようだった。
水の塊を、滑らかな肌身が、身体全体で重い水をシャープに切って行くような、そんな感覚ですら湧き上がる。
そうして育った生命が生んだ、稀有な風味が、今一度、遠藤さんのカウンターでその夜、蘇った。
*
この鮪を揚げたのは、田中一さん。ポルトガル在住の鮪漁の漁師さんだ。
全身全霊を、鮪に捧げ、鮪漁に取り組まれている。
Endoでの食事から数日経ったある日、彼に、背トロについて伺いたい、とメッセージ送り、その返信を見て、愕然とした。
そこには、こう、書かれてあった。
「背は、腹に比べ脂が少ないです。
その分、魚が持っている特徴が大きく表れます。
逆に言えば、脂は特徴が出にくい部位です。
魚の特徴とは、今までどの様に生きてきたかです。
言ってみれば、マグロの生き方が表れるのが背です。
マグロの住んでいる、海の香り。
マグロが食べている、食べ物の香り。
マグロの泳いだ距離、筋肉の締まり。
コレらが、脂が少ない部分に表れます。
脂が少ない分、人間がより繊細にそれを感じ取るのだと思います。
全神経を使って、それを味わうのだと思います」
この夜のような、味わいをくださった、遠藤さんと田中さん、Endoに関わる全ての皆さんに感謝したい。
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遠藤シェフ、チームの皆さんの、熱い想いと挑戦の物語、投稿させていただいております。
Endo at The Rotunda
田中一さん
www.instagram.com/tanakahajime.bftlabo
- 下の写真は、スペイン産養殖鮪。ヨーロッパではこちらも最上級とされている。それぞれの鮪の味わいを見極めて、遠藤さんは、それらを極上の握りに仕立てる。