高台寺和久傳が手がける、珠玉の朝の時間に、心も身体も洗われる。
京都、三条の白川沿いにある「丹(たん)」で朝食をいただきました。
前夜、思う存分、京都の美食を尽くしても、朝には身体は軽く、そして、健康的な空腹感がある。
これこそが、頭であれこれ考えるよりも、一番わかりやすい、日本料理の良さかもしれない。
中心地街から少し行き、白川橋を渡ってすぐ。
気構えることのない空気を湛えながらも、凛とした印象を感じさせる「丹」。
それは、高台寺和久傳が手がける、お店だと聞くと、納得が行く。
内装は、数寄屋建築を代表する中村外二工務店が手掛け、店名の書は四代目市川猿之助氏だそうだ。
素材へのこだわりと、食べ手への心遣いは、和久傳と同じ想いを共有する。
朝ご飯は8時と9時の2部制で、時間に着くと、店へ入る前から、白川の清涼な水の音と、柳の青に心が洗われる。
大きなテーブルのひと席をいただいた。
熱いお茶をいただけば、朝食のお皿が、順に供される。
胡麻の風味が舞うかのような、白和え。
歯ごたえのしっかり残された、きちんと噛むことで、味わいが立ち上がる野菜。
滋味深いもろみ。
料亭の趣きを感じさせる鱒。
淡い風味の香の物。
美しい井出立ちの生卵。
どれもが控えめで、モダンな軽さをたたえた美味しさがある。
しかし、圧倒的に打ちのめされたのは、炊き立ての白ごはんだった。
丁度、食事の途中で炊き上がり、土鍋の蓋をあけて、その蒸気が立ち昇る様を間近に見る。
この時「あ、そうか。だから開始の時間が決まっていたのだ」と、気づかされた。
お茶碗に盛られた艶々のご飯は、口当たりはさらりとしていて、まるで陶磁器のような滑らかさがある。
ネバネバとした感触は一切ないのに、口に含み、噛み締めると、甘く、濃醇で、ふくよかな芳香が、口いっぱいに広がる。
綺麗な美味しさの余韻が、じんわりと、続いていく。
お茶碗に、スクっと収まっているので、箸で最後の一粒まで、苦心なく摘めてしまう。
米は、京丹後・久美浜市野々の自家畑の米だという。
無農薬・無化学肥料で栽培され、「土作りから始まり、苗作り、田植え、人力除草、草刈、稲刈り、脱穀に籾摺り・乾燥、検査そして精米。まで一貫して自社のスタッフが行っています」と説明にある。
こだわりは、文字のためだけではなく、きちんと味わいに結びついていて、本当の美味しさとして、昇華してあった。
この、ご飯のためだけに、また、訪れたいとも思う。
上質の朝の時間は、食後まで、しっかりと引き継がれていく。
2階の席で、ゆっくりとセルフサービスで食後のコーヒーが頂ける。
階段を上がる途中から、この上に、更にすこぶる何かがあると、期待させられて止まない。
そして、その期待を超えるかのような、光景が、目に飛び込んでくる。
川のせせらぎを、開け放たれた一枚絵画のような窓から眺め、爽やかな一日を始められることに、単純に感謝したくなる。
京都の朝ご飯、珠のような場所。
丹 tan
TEL. 075-533-7744
京都市東山区五軒町106-13三条通り白川橋下ル東側 MAP
朝食 8時~・ 9時~[2部制]
昼食 12時~15時
夕食 17時~21時